アリアンロッドだらだらセッション
思いつきSS01

昼間なのに黄昏のように暗い空

まるで絵画の背景のようにそびえる暗い森

降り注ぐ雨の中、静かにたたずむ、二つの人影

「神様って意地悪ですよね。」

少女が呟き

「だったら、お前も神なんか捨てちまえよ。奴は助けてくれはしない」

男が答える

「でも、これが私の仕事ですし……」

少女の手が持ち上がり

「これが私の選んだことですから。」

手の中の”銃”が男を狙う

 PAN

細かい雨が降り注ぐ森の中

風の音も 小鳥の音も無く

ただ

ただ 静かに泣く泣き声だけが響いて

シルバー     ブリット
「聖銀の銃弾」

〜 リーチェの過去話 その1 〜

”冒険者”

この世界”エリンディル”には、そう呼ばれる人々が居る.。

元々は、神々が残した遺産を、探し見つけ出す神殿の神官たちを刺していた。

しかし、現代においてその仕事は、「猫探し」から「遺跡探索」そして「魔王退治」まで及ぶ。

運と実力で「英雄」と呼ばれることもある人々。

そんな英雄候補生が”冒険者”なのである。

 

 「はじめまして。リーチェ=フルー神官見習いです。よろしくお願いしますですよ」

目の前の少女は、そう挨拶すると、ぴょこんとお辞儀をする。

ツインテールの髪が元気にぶんぶんと動き回り、この少女の性格を現しているようだ。

 「あ、ああ よろしく。」

思わず苦笑を浮かべて、手を差し出す。

傷だらけで、ごつごつで、だが俺の自慢の手。

そんな手を見て少女は、目を丸くする。

まあ、そうだろう。堅気の手じゃない。怖くなっても仕方ないだろう。

 「うわー。歴戦の戦士って感じなのですよ〜。立派なのです。」

嬉しそうに、言うと。小さな手でしっかりと握ってきた。

まだ、やわらかく小さい手。

しかし その手もまた……

 「お褒めに預かり光栄だね。」

気を取り直して、目の前の少女を観察する。

背は、俺の胸に届かないくらい。

顔は、年中ニコニコしている様で、微笑ましいが、逆に覇気はない。

だが、その目は、真っ直ぐに見つめていた。

 「あう? どうしましたです?」

その視線に気がついたのか少女は、首をかしげて訪ねてきた。

普通、こんな強面の男に睨まれたら、不安になるか怯えるものなのだが……

 「いや、新米と聞いていたんだがな。どうやら、俺達は運が良いようだ」

 「あう?」

今度は、反対側に首をかしげている。まるで小鳥のように微笑ましい。

 「いや、気にしないでくれ。とりあえず、ギルド”ラッキースター”へようこそ」

 

 俺は、グレイ=アルバート 今年で30になる。

職業は”冒険者”

世の中には、冒険者を、ならず者、山賊と違いないと思っている奴らも居るが、

元々は、神殿から依頼を受け、「神々の遺産」を探索していた者たちなのだ。

そのため今も神殿が、冒険者達を登録斡旋管理している。

仕事は、多岐にわたる。「喧嘩の仲裁」から「魔王退治」までだ。

もちろん一人の人間がそんな幅広い技能を持つことはできない。

それぞれの専門家(エキスパート)があつまり、一つの集団”パーティ”を作るのが通例だ。

そしてその上の集団を”ギルド” という。元々は職能集団をさす言葉だが、

神殿がパーティ単位では管理できなくなったため、もう一つ上の集団を作り管理しやすくしたらしい。

その代わり、神殿からの援助はギルド単位で受けれるので、こちらとしても助かる。

 俺が所属しているのは、”ラッキースター” というギルドだ。

恥ずかしい名前だが、その名の通り、幸運の星にあるため、中堅ギルドと呼ばれるようになった。

人数は、4人。

身軽で軽薄な、盗賊のガル。いつもぶつぶつ文句を言う、神経質な魔法使いの、テカルト。

人の顔を見ると説教しかしない、神官のフェルトン。

そして、ギルドマスターの俺、グレイ。

巨大な剣を使う、屈強な戦士だ。しかも、かっこよく。性格もいい。

だが、残念ながら、戦いに次ぐ戦いの日々で顔や身体は、切り傷だらけ、

自慢の傷だが、見てくれは、怖いものになっている。

俺が余りにかっこいいので嫉妬する奴らが多かったのだ。まあ仕方ないことだろう。

 

 自己紹介は、この辺にして今の状況を話そう。

俺達は、荒稼ぎを目指して「空中庭園テニア」と呼ばれる街にやってきた。

ここは、空を飛ぶ遺跡をそのまま、一つの街にしちまったというとんでもない場所だ。

だが、それには、訳がある。

その町には、世界中へつながっている「転送装置」があるのだ。

具体的な仕組みは、わからないが、この街から、世界中にある遺跡に一瞬でいけるわけだ。
(もちろんどこでもって訳じゃあないらしいが)

そのため、ここを中継基地として遺跡探索を行なう冒険者が現れた。

ずっと居る冒険者を目当てに店を開くものが現れた。

そうすると、ますます冒険者が増え、さらに住むものが増えていく。

こうして、空中都市テニアが生まれたわけだ。

 当然今も、遺跡につながる「転送装置」は、稼動している。俺達もそれを目当てにやってきた。

そして、神殿にここでしばらく世話になると挨拶しに行くと

 「ここでは、神殿から管理人を派遣しており、そのものが仲介役になります」

と来たもんだ。

その上、紹介されたのは、14歳の女の子。……どう見ても初心者(1LV)

俺達が4人で動くのは、身軽さを身上としているからだ。

それなのに神殿から足手まといを押し付けられたのだ。当然全員文句を言い出す。

 「けっ。こんな青クセーガキが冒険者だとー? なめてんのかぁ?」

 「そんな話聞いておりません。だいたい、未熟者などマイナスの要素にしかならないではないですか。
だいたいですね、こんな男性しかいないギルドに女の子を入れるとはどういうことですか!?
これだから、田舎の神殿はですね……」

 「あなた、今走ってきましたね?神殿の中を走るとは、どういうことですか?
しかも神官見習いではないですか。それなのに、冒険者になるとは……
まずはちゃんと修行を積んでですね……」

 全員、経験を十分につんだ冒険者だ。

その言い分は、経験の裏打ちがある自信で説得力がある。

しかも、相手は、小さな少女。

これは、泣き出すか、逃げ出しちまうな。そう思っていたのだが……

きっぱり無視して挨拶してきたわけだ。

 

 「って、おい、グレイ、こんな小娘ギルドに入れるのかよ!?」

 「信じられませんね。もしかしてその手の趣味でもあるのですか、キミは。」

 「また、貴方は、そうやって勝手に決定する。
その身勝手さがですね、どれだけ迷惑を私たちが受けてきたか……」

文句の矛先がこっちに向いちまった。

 「だが、こいつを入れないと、転送装置が使えないんだろ? 諦めろ。」

転送装置が使えない。つまり、この街で冒険者の仕事がほぼなくなることを意味する。

 「ちっ しゃーねぇーなー。おいお前、足手まといになったら捨てるからな!?」

 「確かに理性的な判断ですね。まあ、いいでしょう。
 しかし、その分の補填を神殿の方に掛け合ってですね……」

 「神よ、これも試練なのですか? 未熟者を導くのもまた使命なのですね」

三者三様に仕方ないといった感じで納得する。

まったく面倒な奴らだ。最初から、入れるつもりのクセに。

そのつもりが無いなら、この程度で引き下がる連中じゃないことは、俺が良く知っているってーの。

 「くす、くすくす…… あははは、あははははは〜」

突然、新米が笑い出した。

いや、今まで笑いを堪えていたのが吹きだしたようだ。

なんだか、こちらもつられて笑いたくなる、そんな楽しそうな心地いい笑い声。

 「……?」

思わず、その笑いにあっけに取られて、文句を言っていた3人も固まった。

 「あははは……す、すみませんですよ〜 あはは みなさん、仲がいいんですね。 あはは」

ふむ。なるほどな。

 「お前らの3文芝居が面白いだとよ。」

俺も釣られて、笑ってやる。

どうやらこの娘は、俺達が最初から入れるつもりなのを見抜いていたらしい。

そして、余りに下手くそな言い訳を並べる三人を見て、まあ道化師がやるコントのように見えたようだ。

たしかに、大の大人が小娘相手にやる下手な芝居。

笑いがこみ上げてくる

 「新入りのクセに、先輩を笑い飛ばすとは、いい度胸してるな」

へへへと笑い出す、ガル

 「まったく。目上に対する礼儀というのを学んだ方がいいですよ」

必死に眼鏡の内に笑みを隠すテカルト

 「貴方も神に仕える身ならもう少し、控えめになさい」

穏やかに笑うフェルトン

 「えへへ〜」

そして今度は、照れたように笑う新米。

どうやら、俺達は、いい担当者を引き当てたらしい。

”ラッキースター”は、今回も瞬いたようだ。

 「よし、まずは歓迎会だっ」

俺の号令に全員の歓声が唱和した。

 

 「えーうー これが歓迎会なのですか〜〜?」

 「そうこれが俺達の歓迎会だ」

 「もっとも、歓迎会なんてこれが初めてですけどね」

 「へへへっ。お前さんもノリノリのクセになー」

 「ま、これも試練です。頑張りなさい」

 「うん 頑張りますですよ♪」

 今、私たちは森の中で戦っていますです。

歓迎会……そういわれて、パーティを想像したのですがー
いきなり、その場で神殿から依頼を受けて、そのまま「転送装置」で森の中に移動して
あっという間に、狼さんに囲まれて戦闘中なのですよ

本当にびっくりしたのです。

ギルドマスターのグレイさんが言うには、
(チームワークなんっていうのは、実際に一緒に冒険して行く中で生まれるものだ)

なんだそうです〜 やっぱりベテランの人が言うことは、違うのですよ〜

ガルさんは、
(そんな事初めて聞いたぞ、おいっ)

って言っていたけど、気にしないことにしますですよ♪

 

 そうそう、肝心の依頼……つまりお仕事の依頼なのですが〜

「初心者向けのダンジョンの周りに出た高レベルエネミーを殲滅すること」
なのですよ

グレイさんたちは、高レベルな冒険者なのでーただのエネミー退治なら余裕なのですよ

そうボクは、判断して依頼を選んだのですよ。

うん、これがボクの”管理人”としての初仕事だったのです。

……このとき、”何故そんなエネミーが現れたのか?”を考えておけば、
この後の悲劇は、避けれたのです……

 

 「おりゃあ〜〜 これでラストぉ」

グレイさんの巨大な剣が、怪物の胴体を真っ二つに斬りましたのです。

あの剣ってボクよりも重そうなのですー それを軽々と振り回すのは、かっこいいのですよ〜。

顔とか腕とか、あちこち怪我の後だらけなのを気にしているみたいなのですが、

それでも、かっこいいと思うのですよ〜

 「ちっ 持ってかれちまったか」

悔しそうに手の中の短剣をくるくる回しているのが、ガルさん。

二本の短剣を使って戦う姿は、なんだか踊っているみたいで、綺麗なのですよー

でも、それを伝えたら、殴られちゃいましたですよ〜 痛かったのです ひどいのですよ

 「ふう、流石に数が多いですね、そろそろ休みましょうか」

杖に寄りかかって座り込んでいるのがテカルトさん。

座っている下に丁寧に、マントを広げているところがらしいなぁって思いますです。

あまり、攻撃的な魔法じゃなくて、みなさんを助ける魔法を使うみたいなのですよ。

何でって聞いたら「あぶないじゃないですか」だって

 「グレイ、前に出すぎですよ。ほら、また怪我をしてる。
 私の精神力も無限じゃないんだからちゃんとですね……」

グレイさんに治癒の魔法(ヒール)をかけながら説教しているのがフェルトンさん。

私と同じ、神官さんで、戦闘のときも大きなメイスで戦っていましたです。

いつも、なにか注意するところがあるのですよー。神殿の寮長もあんな感じだったのですよ。

でも、穏やかでいい人なのです。 でも、説教は減らして欲しいのですよう

 あ、私は、リーチェ=フルー。テニア神殿の所属の神官見習いなのですよ。

神殿と冒険者のみなさんの仲介役(通称”管理人”)がお仕事なのです。

今日、”ギルド:ラッキースター”に加わりましたです。初めてのお仕事なのですよ。

だからかな。少し浮かれすぎていたのです。

 

 ぱちぱち 焚き火が弾ける音が響く。

 神殿で「沸いたエネミーの討伐」の依頼を受けて今日一日、森の中を動き回り戦った。

とりあえず日が暮れたところで中断。キャンプとなったわけだ。

この手の依頼は、とにかく長期にやりやすい。

もし、沸いた原因があるならそれを見つけない限り、いくら倒しても、いたちごっこになるためだ。

そのための早めの休息。それがわかっている仲間達は、食事が終わると早々に休んだ。

 なのに、こいつは

 「あうー 寝れないのですよ〜 お話していいですかー? 色々聞きたいのですよー?」

と、側によって座った。よるな、困るじゃないか。

グレイは、「いい管理者でラッキーだったな」とか言っていたが、

どう見てもシロートだ。昼間の戦いでも狼にさえ苦戦していた。アンラッキーだ。

 「えーとですねー 何で冒険者になったのです〜?」

 っていきなりふつーそんなこと聞くかよ!?

 まだ、今日会ったばかりだぞ? 何考えていやがる。

 「私は、家族が全員冒険者なのですよー。それでー冒険譚とか聞いて〜
いつか私も冒険者になるんだーって思っていたのですよー。
 でもねー。女の子なんだから女の子らしくなりなさいって言われちゃってー
神殿に、入れられちゃったのですよー。ひどいと思わないですー?」

 ああ、そうだな。気のない返事を返してやる。

てきとーに流しておけばそのうち飽きて寝るだろう。

 「それでですねー。私はくじけそうになったんですけど、神殿でーカーウェイ君に出会ってですねー」

……なんで、神殿に行儀見習いで入ったのに、お前は、魔物退治やってるんだ?

 「でですねー。実は、古代遺跡があってですねー」

……おい、何故、調理実習が古代遺跡探索になるんだ?

 「それで〜 その先輩がですねー 恋人さんに逃げられちゃって〜大変だったのですよ〜」

……

…………ああ、空が白み始めたな

 「そうなんですかー。妹さんの病気を治すために……大変だったのですね〜」

って

おいっ。何故俺は、こいつに頭をなでられているんだ?!

しかもいつの間にか、冒険者になった理由をしゃべっちまってるし。

 「そろそろ朝ですねー 朝食の準備をしてみなさんを起こすのです〜」

ぱたぱたとお尻をはたいて、立ち上がりとてとて 行っちまった

……なんで一晩中付き合っているんだか。

バカか、俺は

 

 探索を開始して2日が過ぎました。

報告どおりこの周辺は、危険なエネミーが徘徊していました。

ただ、その数は、報告以上。とてもじゃな有りませんが、自然現象とは思えない。

まったく、神殿仕事はこれだから困る。結局、私たち冒険者に負担がかかるのですから。

 紹介が遅れました、私は、テカルト。”ラッキースター”のメイジであり、軍師です。

ギルドマスターのグレイは、今まで幸運で乗り切ったと思っているでしょうが、

私の捻密な計画があってこそ、ここまで来れたのです。あの男は、そこのところがわかっていない。

もう少し、私の話を聞くように心掛ければもっと効率よくですね……

 ……こほん。話を元に戻しますね。

つまり今回のエネミー発生は、明らかに人為的なものがあるということです。

これだけの数がこれだけしかないエリアにひしめいているのですから。

通常こういう風に急に増えた場合、一箇所に留まらずにドンドン周りに広がるものなのですよ。

 「グレイ、気がついていますか?」

数度目の休憩のとき、提案することにしました。

 「なにがだよ?」

 「これは、明らかに人為的なものです。このまま、手当たり次第に倒しても解決しません」

 「……やっぱりそうなのか。それで、これからどうした方がいいと思う?」

普段は、勝手にドンドン決めて行くのにこんな時は、キチンと意見を求める。

私たちが彼をギルドマスターにした理由の一つです。

 「事前にもらった地図と、エネミーの密集具合の偏り、そして、恐らく何らかの儀式を行なったと
推測すると……」

荷物から地図を取り出し、広げると、他の3名も覗き込んできました。

 「恐らく、この洞窟が拠点だと思われますね」

地図には、自然の洞穴と書かれている、ごく自然の洞窟。そこを指差します。

 「それで、そこに行くには?」

その推測の根拠の説明をしようとしたら、グレイが先を促しました。

ふむ。説明は、向かう途中にとことんしてあげることにしましょう。

 「今がここ。この川沿いに移動するのが良いと思われます」

地図の上で現在位置を指差し、そのまま予定コースをなぞり、洞窟を再び指差しました。

 「うげぇ? そんなに遠回りになるのかよ?」

なるのか という確認だけ。つまり、ガルも私の意見を尊重しているようですね。

 「なるのですよ。さらに倍以上のエネミーを相手にはしたくないでしょう?」

 「うみゅ」

こくこくとうなずく、リーチェさん。

まあそうでしょうね。彼女は初心者。この2日間の戦闘の連続は、大変だったはずです。

それについてきただけでも、賞賛ものでしょう。

最初、紹介されたときは、憤慨したものでしたが……少々見直したところです。

だからこそ、

 「リーチェさん。キミは、ここから転送装置のところまで戻り、テニアから援軍を呼んでください」

 「えう!? な、なんでですか!?」

 「わっかんねーかなぁ 足手まといなんだよ、ここからは」

ガルの言葉に、明らかにショックを受ける彼女。

慰めてあげたいところですが……ここは、鬼にならなければ

 「理由は、3つです。
1つ。テニア神殿への手続きなどは、キミの仕事であること。
2つ。このメンバーで一番戦力からかけて問題ないこと。
3つ。隠密行動の場合、一人のミスが全滅を招くこと」

場に落ちる沈黙。

しかし、ここでわがままを言うようなら、私たちは、キミを仲間と思わなかったでしょう。

だから、私は、彼女が答えるまで待ちました。

 「わかりましたです……戻りますです」

その後は、2,3確認事項をとった後彼女は、走って戻っていきました。

 

 「テカルト、それで何を黙っていたんですか?」

彼女の姿が消えたのを確認してから、フェルトンが訪ねてきました。

やれやれキミには、隠し事が出来ませんね。

 「どうやら、この事件の首謀者は、魔王クラスの復活を目論んでいそうなのですよ」

 「なあにぃ!?」

 「ガルうるせえぞ?」

 「あ、グレイお前なんとなく、わかっていやがったな!?」

 「わからない、貴方が悪いのですよ」

 「な、なぜ、そんな話になるんだよ?」

 「簡単です。呼び出されたのがアンデッドか魔族、またはその僕」

そしてもう一枚の地図を取り出します

 「これは、事前に調べておいたことなのですが、この地には、一体魔王が眠っていまして」

取り出した古地図と、今までの地図を見比べてみせる

例の洞窟には、「封印の扉」と古地図には書かれていました。

 「つまり、時間が無い。ついでに余裕も無い。
だから、あのお嬢さんは、戻って援軍を呼んでもらったんだよ。」

グレイは、明後日の方を向きながら締めくくろうとしています

が甘いですよ。

 「どうせ、援軍前に決着をつけるのでしょ? 中央突破して」

 「な、なんでわかった!?」

 「付き合い長いからな。貴方は単純ですし」

 「まあ、ここまで来たんだしな。さっさと終わらせちまおう」

 「そいうことですよ。 仲間なんですから」

そして、私たちは森を突っ切ることになりました。

冒険者って言うのは、なんとも、因果な職業でしょう。

だからこそ、辞める気もないのですけどね。

  

空に雲が漂い始め、日差しがさえぎられてゆく。

森が薄暗い闇に包まれてゆく。

どこか、天から見守る神の眼を覆い隠すような、そんな気分になってしまった。

いや そうじゃない。

神達は、いつも私たち共にいる。

だからこそ、「奇跡」とも呼ばれる「神聖魔術」があるのだ。

空が曇ったくらいで、神は、見放しはしない。

こんな馬鹿なことを思うなんて……私はどうやら予想以上に疲れているようだ。

私は、神官のフェルトン。

ある貴族の出身だが、神殿に入ったときに家名は、捨てた。

だから「フェルトン」だけが私の今の名前。

冒険者としての。ラッキースターの一員としての私の名。

 

「いけませんね こんなことでは」

思わず、頭を振り、口に出してしまった。

予想以上のエネミー つまり怪物の数に予定よりも

はるかに倒す時間がかかってしまった。

「なんだよ? また説教か?」

森の中を先導するガルが振り向いて声をかける。

「そうですよ。このペースでは、彼女が戻るまでに間に合いません」

思わず、反論するように続けてしまう。

彼のいい加減な普段の態度を見ていると、つい説教くさくなる。

彼は、いい加減ではないし、ましてや仕事に手を抜くような事はない。

それは、わかっているのだが。

「はやり、無茶だったのでは?」

このルートを決めたグレイと、提案したテカルトに問いかける

「そんな事は、ありませんよ。

 彼女は、そろそろテニアには着いたでしょうけど、手続きには時間がかかります。

 さらに、そこから冒険者を募り隊を編成して、となるとさらに時間がかかるでしょう。

 つまり、早くても到着は、明日の朝になります」

テカルトは、そんな質問は予想済みと言わんばかりにすらすらと答える。

頭の回転が速いのは、頼りになるのですが、その偉そうな物言いはどうにかならないのだろうか。

「それに、あのお嬢ちゃんの、才能と実力は、年齢にしちゃ立派なものだが、

 ちと、”魔王”クラスを相手にするのは、つれえしな。

 俺達の無茶で、お嬢ちゃんに無理させないですむんだ。安いもんさ」

はぁ

グレイは、グレイで、お人良し全開のセリフを吐いてくれて。

そんなだから、いつも私たちが苦労すると言うのに。

「まったく。貴方達といると退屈は、しませんよ」

もっともその苦労を楽しいと思ってしまう、私も変わり者だが。

 

先に進んでいた、ガルが、右手を上げて手のひらをこちらに向けた。

停まれ そして静かに の合図だ。

どうやら目的の洞窟に付いたらしい。

そのまま ハンドシグナル つまり手による暗号で情報を伝えてくる。

表情は、硬い。

あのお気楽トンボのガルがあそこまで緊張するほどの人数のようです。

「……武装した人間が10人以上……?!」

「しかも奥には、なにか巨大な化け物の気配有りですか」

「だから無茶だといったんですよ。

 大体無計画すぎたんです。

 どうしますか? 援軍を待ちますか?」

私は、あえて苦言を伝え、そして判りきった判断を仰ぐ。

こんな場合のクレイの判断は、いつも同じだ。

しかし、私の役目は、「他の手段を提示」すること。

あえて、苦言を言う事で、みなの判断を油断させない事。

そんな性分だと思うが……私にしか出来ない事でもある。

「決まってる。このまま突撃する。なあに 雑魚がいくらいても同じだ。

 問題は、魔王が出てきてからだな」

クレイの頼もしいセリフ。

私もそう思う。

この4人がそろっていれば、こんな辺鄙なところに眠る魔王くらいに負けません。

 

雲の間から雫が落ちてきた。

降り始める雨。

私は、祈った。

いつもの勝利の祈りではなく。

一人の少女が無事である事を。

 

しとしとと降り注ぐ雨

昼間なのに夕暮れのように薄暗い森

徘徊する魔物たちの気配

そんな中をランタンを持った一人の少女が走っていた。

その明かりは、とても乏しく、闇を払いのけれはしない。

それでも少女の足元と進むべき先を照らし、消して闇に沈んでいない事を精一杯しめす。

「あ……」

ふとランタンの明かりの先に人影が映し出された。

その姿は、傷だらけで血だらけ。

でも間違いなく、彼女の仲間の一人の姿だった。

 

「お前、リーチェなのか? なんでこんなところにいやがんだよ? 増援はどうしたんだ?!」

困惑した表情で、男……シーフのガルは首を振る。

いるはずがない、いないはずの人物を目の前にして。

確かに、彼女は、デカルトの指示でテニアに戻っていたはず。

「戻ってきたのですよ。応援の手配をして。大丈夫です。明日の朝には、増援が来るそうです。」

そんな彼に、リーチェは、大丈夫ですよと笑顔で答えてみせる。

任務をこなし、そしてもう大丈夫だという安心した笑顔。

その安心が本当だったらガルもつられて笑えただろう。

「バカな。神殿がそんなに早く動くわけが……まだ半日も立っていないぞ!?」

「えへへ〜。私、ちょっと神殿長と親しいので無理をお願いしちゃいました」

てへっと照れくさそうに笑う。

「ところで……他のみなさんは? どうして、ガルさん一人なのですか?」

そして不思議そうに首をかしげる

「そ、それは、……それは、相手が人数が多くてよ、これは、やばいってんで、散会して逃げていたんだよ」

あわてて、答える。

「相手、そんなに多かったんですか?」

「ああ、10人はいたかな。どうやら魔王を復活させようとしていたらしくてな。ちょっと手に負えねぇ」

「あの洞窟の魔王をですか。」

「そうそう。だからな。俺達も一度このままテニアに戻ってだな」

「私は、他の人を探してみますですよ。怪我しているかもしれないし」

「バカか!? お前みたいな初心者がうろうろしても、やられるだけだ!!死んじまうぞ」

「ガルさん、私のこと心配してくれるのですか?」

「な、何を言ってやがる。当たり前だろう、仲間だし、先輩なんだし。それに……それによ」

「イジワルだと思っていたけど、ガルさんって良い人なんだすね」

「や、やめろよ。そんなんじゃねえ」

「きっと、妹さん。そんなお兄さんの事大好きですよね」

「……え? あ な、何を言い出すんだよ」

「安心してください。 妹さんの容態は、峠を越えました」

ざあっ

風が森を揺らした

雨は、まだ降り続ける

場に沈黙が満ちる

雨の音が満ちる

そして 時が満ち

二人は動いた。

 

はぁはぁはぁ

荒い息遣いが聞こえてくる。

「どこまで知っていたんだお前は」

彼女を押し倒し、首にナイフを当てて問いかける。

既に、彼女の手には、武器は無い。遠くに転がっている。

後は、ナイフを少し押し込むだけ。

押し込んで引くだけで終わる。

判っていた。そんな事は、判っていた。

何も聞かず、このまま止めを刺すべきだと。

「恐らく、殆ど全部です。

 貴方が、病気の妹さんを助けるために、ある組織に入り、麻薬の売人をしている事。

 その麻薬の原料が、ある種のエネミーの内臓である事。

 その組織が、本拠地にしていたのが例の洞窟であること。

 洞窟に封じられていた、魔王の魂を利用して、エネミーを養殖していた事。」

淡々と告げる声。

怯えはなく、

ただ

ただ

悲しみだけがある。

「ああ、そうさ。俺は、裏切り者だよ。

 今さっきだって、仲間だったグレイ達を罠にはめたところだ。

 本当に魔王を呼び出してな!

 もっともその所為で組織の連中も巻き添えになっちまった……」

どうせ殺す相手だ。

冥土の土産に聞かせてやってもいいとおもった。

いや、

ただ、誰かに聞いておいて欲しかっただけかもしれない。

「俺は、ここでお前を殺す。

 それで、全てのカタが付く。もう仲間も組織もいない。何も証拠も無い。

 俺は、妹とどこかの田舎で過ごすさ。」

そしてナイフに力を入れようとした その時

「無理ですよ……その姿じゃもう」

その一言が止めた

「なっ!?」

「魔王を呼び出したのならその魔王は、どこにいるのですか?」

ナイフが動かない。あと1cmが動かない。

「魔王レルヴァイルは、魂だけが封じられていました。ならその魂を入れる身体が必要です」

ごとり

何かが頭の中でうごめいた。

「な ななな」

声が震える。手が震える。魂が怯えに震える。

「もう誰もいないなら……ガルさんの中にいるんですね」

「いうなっ」

男の叫びと

ズキュッッンッ

乾いた銃声が響いた

 

昼間なのに黄昏のように暗い空

まるで絵画の背景のようにそびえる暗い森

降り注ぐ雨の中、静かにたたずむ、二つの人影

 

地面には、ランプに照らされた青い血がたまっていく。
彼女の武器は、「メイス」だったはず。
何故あんな武器を持っている。
「魔導銃」 ……古の技術”魔導”で作られた銃。
Aランクのアーティファクトアイテム
一介の神官が しかも初心者が携帯するような武器じゃない。

 

「神様って意地悪ですよね。」

少女が呟き

「だったら、お前も神なんか捨てちまえよ。奴は助けてくれはしない」

男が答える

 

最初から、ラッキースターの誰かが怪しいという事は、わかっていた。
だから内偵としてギルドに参加した。
ここまで事態が急展開すると予想は、していなかった。
予想できてさえいれば、こんな事態もならなかったのに。
また、私は、同じ過ちを繰り返している。

 

「でも、これが私の仕事ですし……」

少女の手が持ち上がり

「これが私の選んだことですから。」

手の中の”銃”が男を狙う

 

男は、一気に間合いを詰めて少女の右腕の銃を切りつける。
銃口さえ向けられなければ、怖くない。
所詮、初心者の冒険者。腕も経験も違う。 そう思っていた。
しかし、その余裕は消える。
「左手の銃」が心臓に押し付けられたときに。
なるほど、二本のナイフ使いがいるんだ、二挺銃の使い手がいてもおかしくは無い。
つまり、こいつは最初から武器を隠していた。
実力で足りない分を補うために。
つまり最初から――

 

 PAN

細かい雨が降り注ぐ森の中

風の音も 小鳥の音も無く

ただ

ただ 静かに泣く泣き声だけが響いて

 

私は、最初から疑って、近づいた
最初から騙すつもりで
最初から殺すつもりで
最初から判っていて

でも

まったく判っていなかった。なにも出来なかった。

結局だれも救えなかった。

 

「ご苦労だったな」

先輩の声が聞こえた。

先輩は、厳しい人だ。ねぎらいの言葉だけをかけるだけというのは、珍しい。

つまり、叱責とか出来ないほど、今の私が落ち込んでいるように見えるのだろう。

「私は、大丈夫ですよ」

だから精一杯笑ってみせる。心配無いですよと。

「そうか。ならば、テニア神殿に帰還し、通常任務にもどれ。お前の仕事は、いくらでもある。」

先輩は、視線を私から現場へと移し、他の神官たちに指示を出す。

まったく、素直じゃないというか、不器用。

今の指示も結局、早く戻って休めといいたいのだろう。

「はい。先にテニアに戻りますね」

その気遣いを無駄にしないように、素直に答える。

戻る前にもう一度だけ、現場を見納める事にする。

ここは、森の奥の洞窟。

例の組織の本拠地で魔王が封じられていた場所。

今は、テニア神殿の「ラヴァータ」と呼ばれる組織のメンバーが、現場検証をしている。

ラヴァータ(長い手)とは、神殿に所属する「冒険者を監視、処罰する」組織。

メンバーは、内密に動いてるもの。表立って動いているもの様々だ。

先輩は、後者 そして、私は、前者

なぜ、私がこの歳でラヴァータに入る事になったのかは、また別の機会に話したい。

とにかく、この場には、ラヴァータのメンバーしかいない。

なぜなら、「冒険者が魔王を復活させた」という事実を隠蔽するため。

冒険者は、魔法や剣術など、「戦闘のための能力」をとても高く有する。

王国の騎士団、一個小隊以上の実力を持つギルドさえあるのだ。

そんな冒険者が、人々の敵になると知ったら、世界の人々は、恐怖に怯えるだろう。

また「英雄候補」としてのイメージもある。彼らは、憧れであるべきなのだ。

つまり「神殿にとって都合が悪い」のである。魔王を冒険者が蘇らせたという事実は。

だから、何も無かった事になる。

冒険ギルド、ラッキースターのメンバーは、行方不明扱いになる。

人知れず消えていく。

テニアに来た事実も無い。

私が共に過ごした3日のことも無かった事になる。

全ては、幻。夢のように消える。

 

「そういえば、よく死なずにいたものだ。

 会った時に生きていて驚いたぞ。

 神殿の応援を待ちもせずに、私さえも待たずに、飛び出して。

 相手は、魔王だぞ。判っていたのか?」

先輩の声が聞こえてきた。

少し声が怖いが、逆にそれだけ心配かけたのだろう。

でもどうしても、急ぎたかったのだ。間に合うかもしれない。そう思ったから。

「先輩、ごめんなさ……」

「私は、謝罪を求めていない。

 事態を理解していたのかと聞いている。」

謝る途中を遮られる。うっ……本気で怒ってるのかもしれない。

「……理解していたですよ」

「なら お前に魔王を倒せる算段があったと?」

なぜ、私が魔王を倒せたのか。

「……魔王は、完全に蘇っていなかったのですよ」

魔王は、ガルさんの心を取り込み蘇った。

でも、ガルさんは、妹さんに合いたいという思いが

また仲間達を裏切ったというその悔いが残っていた。

だから、魔王は、魔王として動けなかった。

「それに……ズルをしましたから」

そして、私はそれを利用した。

その悔いをあおり、自らに死を望ませた。

死にたがっている人を殺す事は、とても簡単な事だったから。

それに彼には、私は殺せない。

私を妹さんと被らせていた彼には。

……ひどい人だと自分が嫌になった。

「お前の事だ。

 自分の策に、相手が嵌まり、それゆえに、倒せたのだと。

 そう考えているだろう。

 だが、それは、違う。

 お前は、助けられたのだ。あの者たちにな」

唐突に強い口調でぶつけられる。

「先輩……?」

唖然として顔を上げた。

「魔王と呼ばれる存在。

 そして魔王と戦い抜ける冒険者を侮るな。

 お前ごときが、どうにか出来ることでは、ない。」

「……でも、私はっ」

「言い訳は、いらん。

 お前は、何を見た。何を聞いた。何をしていた。

 アレをみろ。あの人数を、倒せる力。

 小手先でどうにかなるものかっ。

 自らを卑下する事で逃げる事は、許さない。

 奢るな、リーチェ=フルー」

森に恫喝の声が響く。

現場で作業していた神官たちの視線が集まる。

思わず身をすくめ、先輩から視線を外してしまった。

そして、視線の先に、洞窟の様子が入る。

そこには、20は下らない死体が並べられている。

もちろん、ラッキースターの4人の死体も……

「お前は、本来死んでいる。

 それでも今生きているのは、生かされているからだ。」

先輩の声だけが聞こえてくる。

もうあの人たちの声は聞こえない。

もうあの人たちの事はみんな忘れていく。

「ならば、生かされたものとして義務を果たせ。

 ……記録からは、消えるが

 お前は、覚えていてやれ。」

言うだけ言うと先輩は、行ってしまった。

背中が大きく見えた。

いつかあの背中に追いつけるだろうか。

ふとそう思ってしまう。

「先輩は、やっぱり優しいのです。ありがとうです。」

いなくなってから、ポツリとこぼす。

本人の前で言えば、恐らく否定されるだろうし。

結局励ましてくれたのだ。

私の行動は、間違っているとは言わなかった。

正しいというわけじゃないけど、でもちゃんと考え選んだ事を認めてくれていた。

 

顔を上げて、森の木々の間から青空を見上げる。

私は、忘れない。

初めてのギルドに仲間達を。

「でも、やっぱり、私は嘘つきで、ずるいのですよ」

空を見上げる。

私は、もう悲しくないと嘘をつく。

先輩に仕事しろって言われたという、ずるい言い訳で、前に歩き出す。

テニアに戻る道を歩き出す。

明日に向かって歩き出す。

時々振り向く事もあるけど でも 前に向かって歩いていく。

笑顔は、まだ出来ないけど。

もう、涙は流れないから。

 

数日後

新しいギルドの管理人に任命される。

どうやらギルドマスターの人の家系がらみでややこしい事がある上に、

メンバー数人が重要監視対象だったりするらしい。

私は、また嘘をついていくだろう。

でも、それが私の選んだことだから。

その嘘で、誰かが笑顔になるから、私は、嘘を続ける。

誰かが裏切らなければならないなら、私があえて裏切ろう。

それで、護れるものがある事を知っているから。

護りたいものがあるから。

 

「こんにちわ〜。今日から担当になりました、リーチェ=フルーといいますですよ〜 よろしくです」

でも、このときは知らなかった。

このギルドとの出会いで、私も変わっていくことを。

そして、嘘が嘘じゃなくなる事を。

 

 

「これが私の選んだことですから。」

私は、私である限り、選び続ける。

 

生まれて初めて書いたSSです。プロットも何も無いですね(苦笑)
リーチェの初めてのギルド管理人としてのまた、ラヴァータとしての仕事の話
この話の後ティンダロスに加わります。
とりあえず、感想をもらえると嬉しいかな。
また気が向いたら書いてみたいですね。
 2005/03/22 By makoto

 

2005/04/01 一部追記
2005/03/22 完成
2004/12/21 作成
By makoto